vol.99 信じるか信じないかは…
最初は小さな傷だった。DS3の話である。
昨年の12月初めに左ドアに小さな擦り傷を作ったのがことの始まりだ。この段階ではデントリペアで直せる程度の傷だった。すぐに直してしまえば良かったのだが、ちょうどいくつもの仕事が重なっていたこともあって、しばらく放置したのがいけなかった。
ある日の夜、細い裏道を帰る途中、真っ暗な横道から左折車が勢いよく、大きくはらみながら出てきた。咄嗟に避けようとして僅かに左にハンドルを切ったら、歩道を隔てるポールに擦ってしまったのだ。ゴムでもラバーでもない、硬い金属製(鉄?)のポールだったから、あとは想像のとおり。デントリペアで直るはずが、ドア1枚まるごと交換を勧められるほどの大きな傷となってしまった。
さて、どうするかと私は頭を抱えた。ドアを1枚交換すると50万円以上、板金塗装でも最低35万円は掛かる。DS3はすでに購入から10年近くが経つ。もう車両保険には入っていない。冷静に考えれば、手放すのが妥当だ。しかし手放した後、どうするか。新しいクルマを買うにしても、今は欲しいと思うクルマはない。しばらくクルマのない生活を送るのもありだが、傷ついたまま愛着のあるクルマを手放してしまうのも忍びない…。堂々巡りの思考を繰り返しながら、手放すことも修理することも決断できないまま時間ばかりが過ぎていった。
そうやって問題を先送りしていたある日、出先で、DS3を一時的に停めていた駐車場に戻ってきたら、なんと左のミラーがもげているではないか。ぶつけた心当たりはまったくなく、いやはやこんなことってあるのかと唖然とするばかりだった。
数日後、私はその時すでにDS3を手放すことを決めていたはずなのだが、気づいたら、なぜだか空いた時間にヤフオクで「DS3 ミラー」と検索していた。そんなのあるはずないよなと思いながら。ところが、あったのだ。同じ型式、しかも出品されていたのは左側だけ。即決価格1万9800円。輸送費含めても2万5800円也。安い。とりあえずミラーだけでも直そう(…ミラーだけでも直すという発想がすでにおかしいのだが)。そう思ってよくよく説明を読んでみたら、出品されていたのは実はミラーじゃなくてミラー付きの左ドアだったのだ。「えーーーこんなことってあるの⁉︎」と私は再び唖然としたのだった。
落札したドアは私のDS3とはボディカラーが違っていたので、塗装の必要はあるものの、針で突ついたようなほんの小さな凹みがあるほか大きな問題はなく、板金塗装屋さんに聞いたら全部で15万円ほどとのことだった。かくしてDS3は命を長らえ、もうすぐ私のもとに戻ってくる。
それにしてもいったいこの一連の出来事はなんだったのだろう、どんな意味があって、私に何を問いかけているのだろうと謎は深まるばかりである。

Yoko Wakabayashi
OLを経て、2005年からahead編集部在籍。2017年1月から3年半、編集長を務める。2009年から計6回ラリーレイドモンゴルに出場し全て完走。2015年にはダカールラリーにHINO TEAM SUGAWARAのナビとして参戦した。現在はフリーランスで活動しながら、再び、aheadの編集にも関わっている。


